はじめに。
マイクロフォーサーズ(以下MFT)は,
フルサイズ(以下FullSize:図中ではFull)と比べてなにかと不利であるかのようにがいわれがちですが、そんなことはありません.
デジタルカメラの撮像素子のフォーマットにおいて長所と短所はトレードオフの関係にあって、
視点を変えれば長所が短所になり短所が長所になります。
どちらが優れていると結論づけられるものではないのです。
ここではMFTの長所のひとつである、画素密度の高さについて考察します。
この特性は超望遠撮影やマクロ撮影など、
小さいものを大きく撮影する限界に近い場合でより顕著になります。
そしてこれはMFTは画素が小さいから高感度に弱いとかダイナミックレンジが狭いといわれる短所の裏返しであったりもする訳です。
前提条件。
説明を簡単にするため、アスペクト比が2:3の「仮想MFTセンサー」を考えます。
比較のため12×18mmで2000万画素のMFTと24×36mmで4000万画素のFullSizeを想定します。
この条件においてMFTに対してFullSizeはセンサー面積は4倍であるのに、画素数は2倍しかありません。
つまりMFTは画素の密度がFullSizeより2倍高いということになります。
それぞれの画素サイズ(画素ピッチ)を計算するとMFTは3.29μm,FullSizeは4.65μmとなります。
このスペックで重要な点はMFTに対してFullSizeはセンサーのサイズが縦横それぞれ2倍の長さであるのに、出力される画像のピクセル数は縦横とも約1.4倍(√2倍)にしかならないことです.
同じ条件で比較。
これらのセンサーのデジカメで同じ焦点距離のレンズ(同じ光学系)を用いるとどうなるでしょうか?
例えば焦点距離600mmの超望遠レンズを用いて満月を撮影する場合を比較しましょう。
満月の視直径(角度)は約30分=0.5度(月の視直径はおよそ14%変動しますが、計算上30分を用います)です.
600mmレンズがセンサー面に結ぶ満月像の直径は約5.24mmで,
センサーサイズとは無関係に同じ大きさの満月像がセンサーに結像することになります。

それぞれ直径がいくつの画素(=ピクセル)に相当するか画素ピッチを基に計算すると,
MFT=1,593pxl、FullSize=1,126pxlとなります.
こうして撮影した画像ファイルを同じ倍率で画面に表示すると
このようになります。

先に述べた通りFullSizeの画像のピクセル数はMFTに比べて縦横共に1.4倍しかありません.
【図1】と【図2】を比べるとFullSizeの画像は0.71倍に縮小されて、
満月もその分小さく写っていることがわかるでしょう。
それぞれの満月がいくつのピクセルで現されているか(=面積)計算すると、
MFT:約200万ピクセル≒π(1593/2)^2
FullSize:約100万ピクセル≒π(1126/2)^2
となります。
つまりMFTは高密度の画素が効いてFullSizeの2倍の情報を記録しているのです。
見方をかえるとFullSizeはレンズが結んだ像の情報を「取りこぼし」ているともいえます。
実にもったいない話です。
MFTと比べてFullSizeは画素サイズが大きいので、高感度に強くダイナミックレンジが広いと喧伝されますが,こういったシチュエーションではそれが低解像度という短所として働きます.
実写で実験。
これは実際にMFT(OM-1 MarkII)とFullSize(Sony α7RII)でマウントアダプターを介して同じレンズ(Nikon Ai Nikkor ED 600mm F4S(IF)(New))を用いて、
満月(2025年9月8日の皆既月食直前;視直径は約32.3分)を撮影した例です。

各画像を縮小・拡大せずにそのまま編集し、最後に10分の1に縮小してあります。
実際のMFTはアスペクト比が3:4であり計算に用いた条件とは異なりますが本質は変わりません。
ちなみにFullSizeでMFTと同じ情報量を記録するには,焦点距離が1.4倍のレンズを使えばよいです.1.4倍テレコンを挟んでF=840mmとしてFullSizeで撮影すると、満月がMFTとほぼ同じ大きさに写ることがわかります。
この状態でレンズにMFTを取り付ければ、さらに高詳細な画像が得られます。
本考察は「同じ焦点距離(同じ光学系)を用いた場合」が前提です。
ある条件において同じ光学系ではMFTはFullSizeと比較して対象物を2倍の情報量で記録できるという、大きなアドバンテージを有しています。
例として挙げた超望遠撮影のほか同じ倍率のマクロ撮影においても同様で,さらに光学系の限界領域を使う機会の多い望遠鏡や顕微鏡に接続した場合は特に顕著です。
最初に述べたように長所短所はトレードオフであり、
同じ光学系ではMFTは撮影範囲が狭いという短所も持ち合わせています。
拡大限界近傍の撮影においてMFTは高密度画素=高解像度・狭写野,
FullSizeは低密度画素=低解像度・広写野という特性を持っていると結論づけられます.
まとめ。
画像センサーの画素数は様々なので、上記の計算はほんの一例となります。
比較する機種の組み合わせにより、情報量の比は変動します。
なお、FullSizeがMFTと同じ画素密度を得るには約8000万画素が必要となります。
(現在発売されてる多くのMFT機2000万画素の場合。PanasonicのDC-G9M2に対しては1億画素程度)。
この時,個々の画素の実サイズ(画素ピッチ)はMFTと同じ大きさとなるので、
FullSizeがMFTより高感度に強い・ダイナミックレンジが広いというアドバンテージは失われ、
データ量は4倍なので画像エンジンの処理能力やメモリも単純に4倍求められ、
これらは価格にも反映されるでしょう。
こうした差の根源はMFTのセンサーサイズが小さいことに起因するわけです。
画像センサーの長所と短所は裏表の関係でありトレードオフの世界です。
要は何をどう撮影するかその目的に最適な機能のカメラをいかに選択するかです.【終】
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